この問題のテーマ・前提知識
- テーマ: ランダムウォーク・マルコフ連鎖・マルチンゲール
- 前提知識: マルコフ性の定義(現在の状態のみで未来が決まる) / マルチンゲールの定義 \(E[X_n|\text{過去}]=X_{n-1}\) / 条件付き期待値の性質
問題の概要
ランダムウォーク型確率過程のマルコフ性・マルチンゲール性に関する3小問。[1] 確率過程 \(S_n\)(増分 \(X_n\) が前の値に依存する系列)のマルコフ性・マルチンゲール性を検討する。[2] ペア \((X_n, S_n)\) のマルコフ性・マルチンゲール性を確認する。[3] 漸化式で定義された確率過程 \(T_n\) のマルコフ性・マルチンゲール性を判定する。
解説
解法の方針:[1] 同じ \(S_n\) でも過去の経路によって次の分布が変わる→マルコフ性なし。\(E[S_n|\text{過去}]=S_{n-1}+X_{n-1} \ne S_{n-1}\)→マルチンゲールでない。[2] 今の \((X_n, S_n)\) があれば次が決まる→マルコフ性あり。\(E[S_n|\text{過去}]=S_{n-1}+X_{n-1} \ne S_{n-1}\)→マルチンゲールでない。[3] \(T_n\) の定義に \(T_{n-2}\) が含まれる→マルコフ性なし。\(E[X_n – X_{n-1}|\text{過去}]=0\) より \(E[T_n|\text{過去}]=T_{n-1}\)→マルチンゲール。
[1]
マルコフ性について、「現在の \(S_n\) の値さえ分かれば、過去の経緯は無視して未来を予測できるか?」を考える。
例えば、\(X_0=0\) から出発して \(S_2=0\) になったとする。このとき、\(X\) がたどった過去のルートによって以下のように \(S_3\) の動きが変わる。
- ルートA:\(0 \to 1 \to -1\) と動いて \(S_2=0\) になった場合
このとき \(X_2 = -1\) なので、次は \(X_3 = 0\) か \(-2\) である。
従って、 \(S_3\) は \(0\) か \(-2\) になる。 - ルートB:\(0 \to -1 \to 1\) と動いて \(S_2=0\) になった場合
このとき \(X_2 = 1\) なので、次は \(X_3 = 0\) か \(2\) である。
従って、 \(S_3\) は \(0\) か \(2\) になる。
同じ \(S_2=0\) でも、過去の経緯(\(S_1\) が \(1\) だったか \(-1\) だったか)によって未来の分布が異なるため、マルコフ性はない。
マルチンゲールについて、「一歩先の \(S_n\) の期待値は、現在の \(S_{n-1}\) と等しいか?」を考える。
\[E[S_n | \text{過去}] = S_{n-1} + E[X_n | \text{過去}]\]
である。ここで \(E[X_n | \text{過去}] = X_{n-1}\) だが、これは常に \(0\) ではない。
期待値が現在の値 \(S_{n-1}\) からズレてしまう(\(X_{n-1}\) だけ下振れ・上振れする)ため、マルチンゲールではない。
[2]
マルコフ性について、「ペア \((X_n, S_n)\) が今どうなっているか」が分かれば、次が予測できるかを考える。
- 次の一歩: \(X_{n+1} = X_n + \xi_{n+1}\)
- 次の累積: \(S_{n+1} = S_n + (X_n + \xi_{n+1})\)
この計算には、過去(\(n-1\) 以前)の情報は一切不要で、今の \(X_n\) と \(S_n\) さえあれば十分である。
従って、マルコフ性を持つ。
マルチンゲールについて、ベクトルの期待値が \((X_{n-1}, S_{n-1})\) に戻るかを確認する。
第 2 成分の期待値は \(E[S_n | \text{過去}] = S_{n-1} + X_{n-1}\) となる。
これが \(S_{n-1}\) と等しくなるのは \(X_{n-1} = 0\) の時だけなので、マルチンゲールではない。
[3]
\[T_n = T_{n-1} + (X_n – X_{n-1})T_{n-2}\]
この式自体が \(T_{n-1}\) だけでなく、\(T_{n-2}\)(一つ前の過去)を直接使って定義されている。
定義に「過去」が含まれているため、今の \(T_{n-1}\) だけでは未来を決められず、マルコフ性はない。
期待値を計算してみると、
\[E[T_n | \text{過去}] = T_{n-1} + E[X_n – X_{n-1} | \text{過去}] \times T_{n-2}\]
ここで \(X_n – X_{n-1}\) は「ランダムウォークの増分」であり、その期待値は \(\pm 1\) の平均で \(0\) である。
すると、後半の部分が丸ごと消えて、
\[E[T_n | \text{過去}] = T_{n-1} + 0 \times T_{n-2} = T_{n-1}\]
となり、マルチンゲールである。
よくある質問
Q. マルコフ性がない確率過程の具体例を教えてください。
本問の \(S_n\)(増分が前の値に依存する累積和)が典型例。過去の経路を記憶する必要があるため、現在の値だけでは未来の分布が決まらない。AR(2) 過程も現在と1つ前の値の両方が必要でマルコフ性を持たない。
Q. マルチンゲールは「公平なギャンブル」とどう対応しますか?
定義 \(E[X_n|\text{過去}]=X_{n-1}\) は「平均的に現状維持」を意味し、公平(期待収益ゼロ)なギャンブルの数学的定式化。ゲーム前後の所持金の期待値が等しい状態に対応する。
Q. ペア \((X_n, S_n)\) がマルコフ性を持つのに \(S_n\) 単体では持たないのはなぜですか?
\(S_n\) 単体では次の増分 \(X_{n+1}\) の分布が決まらないが、\(X_n\) を加えると増分が決まる。状態空間を拡張することでマルコフ性が回復する例であり、「状態の取り方が重要」という教訓を示している。



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