この問題のテーマ・前提知識
- テーマ: 欠測データ・MAR(Missing At Random)・回帰代入法
- 前提知識: 欠測メカニズム(MCAR/MAR/MNAR)の定義 / 最小二乗回帰の基礎 / 条件付き期待値の繰り返し法則
問題の概要
高血圧患者の繰り返し測定データ(\(Y_1, Y_2\))で \(Y_2\) に欠測がある状況の4小問。[1] 欠測指標 \(H\) が \(Y_1\) にのみ依存するMAR条件が成立することを示す。[2] 完全データ(\(H=1\))のみを使った回帰係数の不偏性を証明する。[3] 回帰代入後の平均推定量 \(\hat{\mu}_2\) が母平均 \(\mu_2\) の不偏推定量であることを確認する。[4] 代入後に回帰係数の推定値が変化しない理由を説明する。
解説
解法の方針:[1] \(E(Y_{2i}|Y_{1i}=y_1, H_i=1)=E(Y_{2i}|Y_{1i}=y_1)\) を示す(欠測の有無が \(Y_1\) の値さえ分かれば余分な情報を持たない)。[2] 完全データの条件付き期待値の繰り返し法則で \(E(\hat{\beta})=\beta\) を導く。[3] 代入値 \(\hat{Y}_{2i}=\mathbf{x}_i^T\hat{\beta}\) を含む平均が母平均 \(\mu_2\) に収束することを確認する。[4] 代入点がすべて回帰直線上にあるため残差がゼロになり係数の推定値が変化しないことを示す。
[1]
欠測の有無(指標変数 \(H\))は、\(Y_1\) の値のみによって決まるため、\(Y_1\) の値が固定されていれば、その人が高血圧群かどうかの情報は \(Y_2\) の期待値に影響を与えない。
これを数式で表すと以下のようになる。
\[E(Y_{2i} \mid Y_{1i} = y_1, H_i = 1) = E(Y_{2i} \mid Y_{1i} = y_1)\]
つまり、「1回目の値が同じであれば、高血圧群であっても非高血圧群であっても、2回目の期待値は同じ回帰直線上にある」 と言える。
従って、観測されたデータ(\(H=1\))だけで推定した回帰式は、全体に対しても妥当なものとなる。
[2]
回帰係数の推定値 \(\hat{\beta}\) は、ベクトル \(\mathbf{x}_i = (1, Y_{1i})^T\) を用いて以下のように書ける。
\[\hat{\beta} = \left( \sum_{i=1}^n H_i \mathbf{x}_i \mathbf{x}_i^T \right)^{-1} \sum_{i=1}^n H_i \mathbf{x}_i Y_{2i}\]
ここで、\(\mathbf{Y}_1\) と \(\mathbf{H}\) を与えた条件付き期待値をとると、(1)の性質により \(E(Y_{2i} \mid \mathbf{x}_i, H_i = 1) = \mathbf{x}_i^T \beta\) となるため、数式を展開すると \(\beta\) が導かれる。
期待値の繰り返し公式を適用することで、最終的に \(E(\hat{\beta}) = \beta\) となり、不偏性がある。
[3]
これは「回帰代入法」と呼ばれる手法である。
サンプル平均 \(\hat{\mu}_2\) は、観測値と代入値の混合平均である。
\[\hat{\mu}_2 = \frac{1}{n} \left( \sum_{i=1}^n H_i Y_{2i} + \sum_{i=1}^n (1 – H_i) \hat{Y}_{2i} \right)\]
この期待値をとると、\(\mathbf{Y}_1\) の情報が活用されるため、最終的に母集団平均 \(\mu_2 = E(Y_{2i})\) と一致する。
つまり、「1回目の測定結果(共変量)を使って補完すれば、2回目の平均も正しく推定できる」 ということを意味している。
[4]
補完に使ったデータ点は、すべて「元の回帰直線上」に完璧に乗っている。
新しい推定量を求めるための残差平方和を最小化しようとしても、補完した点(第2項目)の残差は
\(\beta = \hat{\beta}\) のときに \(0\) となる。
\[\min_{\beta} \left\{ \sum_{\text{obs}} (Y_{2i} – \mathbf{x}_i^T \beta)^2 + \sum_{\text{mis}} (\hat{Y}_{2i} – \mathbf{x}_i^T \beta)^2 \right\}\]
従って、代入を行っても新しい情報は追加されておらず、推定量そのものは変化しない。
よくある質問
Q. MARとMCARの違いを教えてください。
MCAR(完全ランダム欠測)は欠測が観測値・欠測値のいずれにも依存しない最も強い仮定。MAR(ランダム欠測)は欠測が観測済みの変数にのみ依存し、欠測値自体には依存しない。MNARは欠測が欠測値自体に依存する最も扱いにくいケース。
Q. 回帰代入法の欠点は何ですか?
欠測値を全て回帰直線上に補完するため、変数間の相関が人工的に高まり推定の不確実性が過小評価される(標準誤差が小さすぎる)。多重代入法(MI)は複数の代入を行い変動を取り込むことでこの問題を解決する。
Q. 代入後も回帰係数が変化しないのはなぜですか?
代入した点は元の回帰直線上に完璧に乗っているため残差がゼロ。最小二乗法は残差平方和を最小化するが、代入点の残差はすでにゼロなので追加しても解(回帰係数)は変化しない。



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