この問題のテーマ・前提知識
- テーマ: 一元配置分散分析(モデルの識別可能性・分散分析表・対比の検定・多重比較)
- 前提知識: 分散分析のモデル式 \(Y_{ij} = \mu + \alpha_i + \epsilon_{ij}\) / F分布・t分布による検定 / 多重比較の第1種の過誤
問題の概要
4品種の収量データを用いた一元配置分散分析に関する4つの小問。[1] モデルパラメータの識別可能性と制約条件の意味を問う。[2] 分散分析表を完成させF検定を行う。[3] 2品種グループ間の対比を t 統計量で検定する。[4] データを見てから比較ペアを選ぶ方法の問題点を問う。
解説
解法の方針:[1] モデル式の不識別性を示し、制約条件の種類ごとに \(\mu\) の意味を確認する。[2] 平方和・自由度からMS・F値を算出し、F分布の境界値と比較する。[3] 対比 \(L\) の分散を求めて t 統計量を構成し、自由度14のt分布で判定する。[4] データ後から最大差ペアを選ぶことによる多重比較問題(第1種の過誤の膨張)を指摘する。
[1]
一元配置分散分析のモデル式は \(Y_{ij} = \mu + \alpha_i + \epsilon_{ij}\) である。
ここで、各水準(品種)の期待値を \(\mu_i\) とすると、\(\mu_i = \mu + \alpha_i\) という関係となる。
しかし、このままでは問題がある。
例えば、\(\mu=10, \alpha_1=2\) としても、\(\mu=12, \alpha_1=0\) としても、和である \(\mu_1=12\) は同じになる。
つまり、データから \(\mu\) と \(\alpha_i\) を一意に(バラバラに)決めることができない。
これを「識別可能でない」と言う。
そこで、\(\alpha_i\) の合計を \(0\) に縛るなどの制約条件を設けることで、各パラメータを確定させる。
\(\sum n_i \alpha_i = 0\) の場合:\(\mu\) は「全データ(個体)の平均(重み付き平均)」になる。
\[\mu = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^4 n_i \mu_i\]
\(\sum \alpha_i = 0\) の場合:\(\mu\) は「各品種の平均の平均(単純平均)」になる。
\[\mu = \frac{1}{4} \sum_{i=1}^4 \mu_i\]
[2]
分散分析表は以下の通りである。
| 要因 | 平方和 (SS) | 自由度 (df) | 分散 (MS) | F 値 |
| 品種 | 46.6 | 4-1=3 | 15.53 | 3.7886 |
| 誤差 | 57.4 | 18-4=14 | 4.10 | |
| 合計 | 104.0 | 18-1=17 |
\(F\) 値 \(3.7886\) を自由度 \((3, 14)\) の \(F\) 分布の境界値と比較すると、5 %有意水準で「品種間に有意な差がある」と結論付けられる。
母分散 \(\sigma^2\) の不偏推定値は \(4.10\) である。
[3]
検定統計量 \(T\) を作る際、分子の分散で割って標準化する必要がある。
分子を \(L = \frac{\bar{Y}_1 + \bar{Y}_2}{2} – \frac{\bar{Y}_3 + \bar{Y}_4}{2}\) とおくと、その分散 \(V(L)\) は各平均の分散の和になる。
\[V(L) = \frac{1}{4} \sigma^2 \left( \frac{1}{n_1} + \frac{1}{n_2} + \frac{1}{n_3} + \frac{1}{n_4} \right)\]
これを標準化するための係数 \(c\) は、\(\sigma^2\) を除いた部分の平方根として、
\[c = \sqrt{\frac{\hat{\sigma}^2}{4} \left( \frac{1}{n_1} + \frac{1}{n_2} + \frac{1}{n_3} + \frac{1}{n_4} \right)}\]
と求まる。
計算の結果、\(|T| = 2.238\) となり、自由度 \(14\) の \(t\) 分布の 5 %有意水準(両側 2.5 %点)である \(2.145\) より大きいため、5 %水準で有意な差がある。
[4]
N君はデータを見てから「一番大きい \(A_4\) と一番小さい \(A_2\) を比べよう」と決めた。
これは、いわば後出しジャンケンと同じである。
- N君は「偶然一番差が開いたペア」を選んで検定しているため、通常の \(t\) 検定の基準(1 %や 5 %)をそのまま使うのは不適切。
- 4品種ある場合、2つを選んで比較する組み合わせは \(_4C_2 = 6\) 通りある。
- 第1種の過誤の増大:1回の検定で 5 %の間違いを許容する場合、6 回も検定を繰り返すと、「どれか1つでも偶然有意になってしまう確率 」は 5 %よりもずっと大きくなってしまう。
よくある質問
Q. 制約条件 \(\sum n_i \alpha_i = 0\) と \(\sum \alpha_i = 0\) で何が変わるの?
\(\mu\) の意味が変わる。前者では \(\mu\) が全観測値の重み付き平均(全体平均)になり、後者では各水準平均の単純平均になる。どちらを使っても \(\mu_i = \mu + \alpha_i\) の値は変わらないが、パラメータの解釈が異なる点を押さえておく。
Q. 対比 \(L\) の分散はなぜ各平均の分散を足し合わせるの?
互いに独立なグループの平均は独立な確率変数なので、線形結合の分散は各分散の和になる。\(\bar{Y}_i\) の分散は \(\sigma^2 / n_i\) であり、係数 \(1/2\) の二乗が掛かることで \(V(L) = \frac{\sigma^2}{4}\left(\frac{1}{n_1}+\frac{1}{n_2}+\frac{1}{n_3}+\frac{1}{n_4}\right)\) が導かれる。
Q. データを見てから比較ペアを選んではいけない理由は?
最大差のペアを「狙い撃ち」すると、帰無仮説が正しくても偶然有意になりやすい。4品種では比較ペアが6通りあり、ファミリーワイズ誤り率(少なくとも1つ誤って棄却する確率)は5%をはるかに超える。このような状況ではTukeyの方法などの多重比較法を使う必要がある。



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