この問題のテーマ・前提知識
- テーマ: 対数線形モデル・分解可能モデル・条件付き独立性・無向独立グラフ
- 前提知識: 分割表の対数線形モデルの基本形 / 生成集合・クリークの概念 / 逸脱度(尤度比統計量)によるモデル適合度検定 / カイ二乗分布の上側パーセント点
問題の概要
喫煙(A)・精神的ストレス(B)・身体的ストレス(C)・血圧(D)の4因子(各2水準)からなる分割表を題材に、2つの階層的対数線形モデル \(M_1\)・\(M_2\) を分析する。各モデルについて(1)自由度とモデル式、(2)分解可能性・生成集合・期待度数の閉じた式、(3)逸脱度に基づく適合度検定を行い、最後に \(M_2\) の無向独立グラフによる条件付き独立性を解釈する。
解説
解法の方針:[1] フルモデルから辺 \(CD\) を除いた \(M_1\) の自由度・モデル式を整理し、分解可能性を利用して期待度数を閉じた式で表す。逸脱度と自由度4のカイ二乗分布で適合度を判定する。[2] \(M_1\) からさらに辺 \(BD\) を除いた \(M_2\) について同様に処理し、自由度6で適合度を確認する。[3] \(M_2\) の無向独立グラフを描き、\(A\) を条件付けたときの \(D\) と \(\{B,C\}\) の独立性を実社会の文脈で解釈する。
[1]
(1)
モデル \(M_1\) は、フルモデルから因子 \(C\)(身体的ストレス)と因子 \(D\)(血圧)の関連を示す辺 \(CD\) を取り除いたモデルである。
自由度
各因子が 2 水準なので、0 とおいた 4 つのパラメータの自由度はそれぞれ 1 である。
従って、モデル \(M_1\) の自由度は 4 となる。
モデル式
辺 \(CD\) を除くということは、2 因子の交互作用項 \((\gamma\delta)_{cd}\) と、それを含むすべての高次交互作用項(\((\alpha\gamma\delta)_{acd}, (\beta\gamma\delta)_{bcd}, (\alpha\beta\gamma\delta)_{abcd}\))を 0 とおくことを意味する。
\[\log p_{abcd} = \mu + \alpha_a + \beta_b + \gamma_c + \delta_d + (\alpha\beta)_{ab} + (\alpha\gamma)_{ac} + (\alpha\delta)_{ad} + (\beta\gamma)_{bc} + (\beta\delta)_{bd} + (\alpha\beta\gamma)_{abc} + (\alpha\beta\delta)_{abd}\]
(2)
生成集合
モデルに含まれる項の極大集合を指し、\(M_1\) の場合は \(\{ABC, ABD\}\) となる。これはグラフ上で因子 \(A, B, C\) および \(A, B, D\) がそれぞれ完全グラフ(クリーク)を形成していることに対応する。
期待度数の式
\(M_1\) は「分解可能モデル」であるため、期待度数 \(m_{abcd}\) は周辺度数を用いて以下の閉じた式で表される。
\[m_{abcd} = \frac{n_{abc+} \cdot n_{ab+d}}{n_{ab++}}\]
これは、因子 \(A, B\) の水準を固定したとき、因子 \(C\) と \(D\) が条件付き独立であることを示している。
(3)
計算された逸脱度は 2.062 である。
自由度 4 のカイ二乗分布と比較すると、統計数値表より \(\chi^2_{0.90}(4) = 1.06 < 2.062 < 7.78 = \chi^2_{0.10}(4)\) となる。
\(P\) 値は約 0.72 と十分に大きく、モデル \(M_1\) はデータによく適合している(当てはまりが悪くない)と判断される。
[2]
(1)
モデル \(M_2\) は、\(M_1\) からさらに因子 \(B\)(精神的ストレス)と因子 \(D\)(血圧)の関連を示す \(BD\) を取り除いたモデルである。
モデル式
新たに \((\beta\delta)_{bd}\) と \((\alpha\beta\delta)_{abd}\) を 0 とおく。
\[\log p_{abcd} = \mu + \alpha_a + \beta_b + \gamma_c + \delta_d + (\alpha\beta)_{ab} + (\alpha\gamma)_{ac} + (\alpha\delta)_{ad} + (\beta\gamma)_{bc} + (\alpha\beta\gamma)_{abc}\]
自由度
\(M_1\) の自由度 4 に、新たに取り除いた 2 つのパラメータの自由度を加え、合計 6 となる。
(2)
分解可能性
\(M_2\) に対応するグラフは「長さ 4 以上の弦のない閉路」を持たないため、分解可能モデルである。
生成集合
生成集合は \(\{ABC, AD\}\) となる。
期待度数の式
共通する因子 \(A\) を介して以下のように計算できる。
\[m_{abcd} = \frac{n_{abc+} \cdot n_{a++d}}{n_{a+++}}\]
このモデルの逸脱度は 3.802 であり、自由度 6 の下で \(P\) 値は約 0.70 となる。これも適合度は良好である。
[3]
モデル \(M_2\) の関係性を可視化すると、以下のような無向独立グラフが得られる。
つまり、喫煙者だけの集団、あるいは非喫煙者だけの集団という「喫煙の有無を揃えた条件」で見れば、職業ストレスが高いことが直ちに高血圧に結びついているわけではない、という分析結果になる。
条件付き独立性
因子 \(A\)(喫煙)が因子 \(D\)(血圧)と \(\{B, C\}\)(ストレス)の間に位置している。これは、「因子 \(A\) を与えたとき、因子 \(D\) と \(\{B, C\}\) は条件付き独立である」ことを示している。
実社会での解釈
喫煙習慣(因子 \(A\))を固定して考えると、職業上のストレス(因子 \(B, C\))と血圧(因子 \(D\))の間には直接的な関連は見られない。
よくある質問
Q. 対数線形モデルの自由度はどう数えるのですか?
フルモデルのセル数からモデルが推定するパラメータ数を引いた値が自由度になる。階層的モデルでは「0 とおいたパラメータの数」がそのまま自由度の増分に対応する。各因子が 2 水準の場合、1つの交互作用項を除くと自由度が 1 増える(3 因子以上の交互作用は水準数の積から 1 を引いた分だけ増える)。
Q. 分解可能モデルとは何ですか?なぜ期待度数が閉じた式になるのですか?
グラフ上ですべての閉路が弦を持つ(完全グラフの貼り合わせで表せる)モデルを分解可能モデルという。この構造を持つと、クリーク間の分離集合を介して周辺度数の比で期待度数が表せるため、反復計算(IPF)を使わずに閉じた式が得られる。
Q. 逸脱度(尤度比統計量)が大きいほどモデルが悪いということですか?
その通り。逸脱度はサチュレーテッドモデル(完全飽和モデル)に対する対数尤度の差の 2 倍で、0 に近いほどモデルがデータに近い。帰無仮説「モデルが正しい」のもとで逸脱度は近似的に自由度 \(k\) のカイ二乗分布に従うため、\(P\) 値が大きければ(慣例では 0.05 以上)モデルを棄却しない。



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