統計学

【統計検定準1級】2021年6月 選択問題及び部分記述問題 問8【解答例・解説】

この問題のテーマ・前提知識

  • テーマ: 2標本検定・必要症例数の計算・検出力(第2種の誤り)
  • 前提知識: 仮説検定の枠組み(帰無仮説・対立仮説・有意水準) / 標準正規分布の上側確率点 / 片側検定と両側検定の使い分け

 

 

問題の概要

降圧薬の臨床試験(片側t検定)に関する3小問。[1] 帰無仮説と対立仮説の設定(\(\mu_A > \mu_P\) の片側検定)。[2] 必要症例数計算式 \(n \approx 2\sigma^2(z_\alpha+z_\beta)^2/\delta^2\) の各パラメータが変化したときの影響を問う。[3] 具体的な数値(\(\alpha=0.05\)、検出力0.8、\(\sigma=4.2\)、\(\delta=3.1\))から両群合計症例数を計算する。

 

 

解説

解法の方針:[1] 「薬効を証明する」ことが目的なので対立仮説に \(\mu_A > \mu_P\)(片側)を設定する。[2] 症例数の式で各パラメータの分子・分母への影響を確認する(\(\delta\) が小さいほど症例数は増える)。[3] \(z_{0.05}=1.645\)、\(z_{0.20}=0.842\) を代入して計算し、切り上げて両群合計 \(N=2n\) を求める。

[1]

臨床試験において、新薬(降圧薬A)の効果を検証する場合、「新薬がプラセボ(偽薬)よりも優れていること」を証明するのが目的である。

  • 帰無仮説 \(H_0\):新薬とプラセボに差がない(=効果がない)
  • 対立仮説 \(H_1\):新薬の方がプラセボより血圧を下げる(=効果がある)

問題文に「降圧薬A群の平均減少量を \(\mu_A\)、プラセボ群を \(\mu_P\)」とあり、血圧が減少したら正の値となるため、薬が効くほど減少量は大きくなる。

従って、対立仮説は \(\mu_A > \mu_P\) となる。

また、問題文で「片側検定」と指定されていることからも、不等号を用いた仮説が適切である。

よって、正解は ④ である。

[2]

2群の平均値の差の検定における必要症例数 \(n\)(各群)の近似式は、以下の通りである。

\[n \approx \frac{2\sigma^2 (z_{\alpha} + z_{\beta})^2}{\delta^2}\]

ここで、\(z_{\alpha}\) は有意水準、 \(z_{\beta}\) は検出力(\(1-\beta\))に対応する値である。この数式をもとに各選択肢を検討する。

  1. 検出力を下げる場合
    検出力 \((1-\beta)\) を下げると \(z_{\beta}\) が小さくなるため、分子が小さくなり \(n\) は減少する。
  2. 有意水準を 1% にする場合
    有意水準 \(\alpha\) を厳しく(5%→1%)すると \(z_{\alpha}\) が大きくなるため、\(n\) は増加する。
  3. 分散 \(\sigma^2\) が大きい場合
    分子にある \(\sigma^2\) が大きければ、\(n\) は増加する。
  4. 効果の差 \(\delta\) が小さい場合
    分母にある \(\delta\) が小さくなると、その2乗に反比例して \(n\) は増加する。
    (わずかな差を見つけるには、より多くのデータが必要になるため)

従って、正しい記述は ④ である。

[3]

与えられた数値を用いて、実際に計算を行う。

  • 有意水準 \(\alpha = 0.05\)(片側) \(\rightarrow z_{0.05} \approx 1.645\)
  • 検出力 \(1 – \beta = 0.80\) \(\rightarrow \beta = 0.20 \rightarrow z_{0.20} \approx 0.842\)
  • 標準偏差 \(\sigma = 4.2\)
  • 期待される差 \(\delta = 3.1\)

これらを式に代入する。

\[n = \frac{2 \times (4.2)^2 \times (1.645 + 0.842)^2}{3.1^2}\]

\[n = \frac{2 \times 17.64 \times (2.487)^2}{9.61}\]

\[n \approx \frac{35.28 \times 6.185}{9.61} \approx \frac{218.2}{9.61} \approx 22.7\]

各群の症例数は 22.7 なので、切り上げて 23人。

問題は「両群合わせた数($N = 2n$)」を求めているため、

\[N = 2 \times 22.7 = 45.4\]

となり、これに最も近い(あるいは切り上げた)選択肢は ③ 46 である。

 

 

よくある質問

Q. 検出力と有意水準のトレードオフを教えてください。

有意水準 \(\alpha\) を厳しくする(小さくする)と第一種過誤(偽陽性)は減るが、検出力(\(1-\beta\))も低下し見逃しやすくなる。目的に応じてバランスを取る必要がある。

Q. 必要症例数の計算で効果量が小さいとどうなりますか?

効果量 \(\delta\) が小さいと必要症例数 \(n \propto 1/\delta^2\) が急激に増える。微小な差を検出しようとすると現実的でない規模の試験が必要になる場合がある。

Q. 片側検定と両側検定はどう使い分けますか?

差の方向が事前に分かっている(優越性が一方向)場合は片側検定、どちらの方向の差も検出したい場合は両側検定。臨床試験では安全性の観点から両側検定を採用することが多い。

 

 

コメント