この問題のテーマ・前提知識
- テーマ: ブラウン運動・ボラティリティ推定・モーメント法・相関係数
- 前提知識: ブラウン運動の増分の性質 \(B_t – B_s \sim N(0, t-s)\) / モーメント法(標本モーメントと理論モーメントを等置する推定法)/ 標本相関係数の定義
問題の概要
為替レートをブラウン運動でモデル化した3つの小問からなる。[1] 日次データからボラティリティ \(\sigma\) をモーメント法で推定する。[2] より細かい高頻度データ(刻み幅 \(1/10\))を用いて同様に \(\sigma\) を推定する。[3] ドル/円とユーロ/円の2通貨ペアを共通・個別ブラウン運動で表したモデルで、2通貨間の相関係数 \(\rho\) をサンプル共分散から推定する。
解説
解法の方針:[1] 増分の2乗の期待値が \(\sigma^2 \Delta t\) になることを使い、標本平均と等置して \(\hat{\sigma}\) を求める。[2] 刻み幅が \(1/10\) に変わるため期待値も \(\sigma^2/10\) になることに注意して同様に推定する。[3] 2通貨の増分積の平均と各増分2乗平均から、標本相関係数の定義式で \(\hat{\rho}\) を計算する。
[1]
◼︎モデルの整理
米ドル/円レート \(x_t\) が以下の式に従うとする。
\[x_t = x_0 + \sigma B_t\]
観測データは \(k=0, 1, \dots, 100\) の整数時刻で得られている。
つまり、時間の刻み幅は \(\Delta t = 1\) である。
◼︎増分の期待値
各ステップの増分 \(x_k – x_{k-1}\) は次のように書ける。
\[x_k – x_{k-1} = \sigma (B_k – B_{k-1})\]
この 2 乗の期待値を考えると、
\[E[(x_k – x_{k-1})^2] = \sigma^2 E[(B_k – B_{k-1})^2] = \sigma^2 \cdot (k – (k-1)) = \sigma^2\]
◼︎推定
問題文で与えられた統計量 \(V\) は増分の 2 乗平均である。
モーメント法により、これを期待値と等置する。
\[V = \frac{1}{100} \sum_{k=1}^{100} (x_k – x_{k-1})^2 = 0.001224 \approx \sigma^2\]
従って、
\[\hat{\sigma} = \sqrt{0.001224} \approx 0.03498\]
最も近い選択値は ② 0.035 である。
[2]
◼︎条件の変化
今度はより細かいデータ(高頻度データ)が使われている。刻み幅は \(\Delta t = \frac{1}{10}\) である。
与えられた統計量は以下の通り。
\[V_1 = \frac{1}{1000} \sum_{k=1}^{1000} (x_{\frac{k}{10}} – x_{\frac{k-1}{10}})^2 = 0.000595\]
◼︎増分の期待値
刻みが \(\frac{1}{10}\) の場合、増分の 2 乗の期待値は次のようになる。
\[E[(x_{\frac{k}{10}} – x_{\frac{k-1}{10}})^2] = \sigma^2 \cdot \frac{1}{10}\]
◼︎推定
同様に期待値と等置すると、
\[V_1 \approx \frac{\sigma^2}{10} \implies \sigma^2 \approx 10 \cdot V_1 = 0.00595\]
\[\hat{\sigma} = \sqrt{0.00595} \approx 0.0771\]
最も近い選択値は ③ 0.077 である。
[3]
◼︎モデルの構造
2 つの通貨ペア(ドル/円 \(x_t\) とユーロ/円 \(y_t\))が、共通のブラウン運動 \(B_t^{(1)}\) と個別のブラウン運動 \(B_t^{(2)}, B_t^{(3)}\) に依存している。
\[x_t = x_0 + \sigma_1 \sqrt{\rho} B_t^{(1)} + \sigma_1 \sqrt{1-\rho} B_t^{(2)}\]
\[y_t = y_0 + \sigma_2 \sqrt{\rho} B_t^{(1)} + \sigma_2 \sqrt{1-\rho} B_t^{(3)}\]
この構造において、増分 \(\Delta x\) と \(\Delta y\) の相関係数は \(\rho\) となる(各増分の分散が \(\sigma_1^2 \Delta t, \sigma_2^2 \Delta t\)、共分散が \(\sigma_1 \sigma_2 \rho \Delta t\) となるため)。
◼︎パラメータの推定
相関係数 \(\rho\) の推定値 \(\hat{\rho}\) は、サンプル共分散をサンプル標準偏差の積で割ることで得られる。
- \(V_1\) (xの増分 2 乗平均) \(= 0.000595 \approx \sigma_1^2 \Delta t\)
- \(V_2\) (yの増分 2 乗平均) \(= 0.001008 \approx \sigma_2^2 \Delta t\)
- \(V_{1,2}\) (xとyの増分積の平均) \(= 0.000292 \approx \sigma_1 \sigma_2 \rho \Delta t\)
よって、
\[\hat{\rho} = \frac{V_{1,2}}{\sqrt{V_1 \cdot V_2}} = \frac{0.000292}{\sqrt{0.000595 \times 0.001008}}\]
\[V_1 \times V_2 = 0.000595 \times 0.001008 \approx 0.00000059976\]
\[\sqrt{V_1 \times V_2} \approx 0.0007744\]
\[\hat{\rho} = \frac{0.000292}{0.0007744} \approx 0.377\]
最も近い選択値は ③ 0.38 である。
よくある質問
Q. ブラウン運動の増分の2乗の期待値はなぜ \(\sigma^2 \Delta t\) になるのですか?
ブラウン運動の増分 \(B_t – B_s \sim N(0, t-s)\) なので、その分散(=2乗の期待値)は \(t-s = \Delta t\) になる。これに \(\sigma^2\) を掛けると \(\sigma^2 \Delta t\) が得られる。刻み幅が変わったときは必ずこの \(\Delta t\) を確認することが大切。
Q. [1]と[2]で \(\hat{\sigma}\) の値が大きく違うのはなぜですか?
\(V\) と \(V_1\) はそれぞれ異なる刻み幅で計算された統計量なので、直接比較できない。[1]は \(V \approx \sigma^2\)、[2]は \(V_1 \approx \sigma^2/10\) という関係になるため、[2]では \(\sigma^2 = 10 V_1\) と換算してから平方根を取る必要がある。両問の \(\hat{\sigma}\) が異なるのは、データの時間スケールが違うことが原因。
Q. [3]で相関係数を推定するときに \(\Delta t\) はどこへ消えるのですか?
\(\hat{\rho} = V_{1,2} / \sqrt{V_1 V_2}\) の計算では、分子・分母ともに \(\Delta t\) を含むため、約分されて消える。具体的には分子 \(\approx \sigma_1 \sigma_2 \rho \Delta t\)、分母 \(\approx \sigma_1 \sigma_2 \Delta t\) となるため、\(\Delta t\) の大きさに依存せず \(\hat{\rho}\) が求まる。



コメント