統計学

【統計検定準1級】2017年6月 選択問題及び部分記述問題 問8【解答例・解説】

この問題のテーマ・前提知識

  • テーマ: 残差の自己相関・ダービン・ワトソン(DW)統計量・Cochrane-Orcutt 変換(AR(1) 変換)
  • 前提知識: 標本自己相関係数の定義(共分散÷分散)/ DW統計量と自己相関係数の近似関係 \(DW \approx 2(1-\hat{\rho})\) / AR(1) 過程の構造と一般化最小二乗法の考え方

 

 

問題の概要

線形回帰モデルの残差系列について2つの小問が設定されている。[1] 与えられた残差の標本分散・標本自己共分散から1次の標本自己相関係数 \(\hat{\rho}\) を求め、DW統計量の近似値と残差のコレログラム(自己相関関数のグラフ)を選択する。[2] 残差にAR(1)の自己相関があると仮定してCochrane-Orcutt 変換を行い、変換後の回帰係数(定数項・傾き)の推定値を選択する。

 

 

解説

解法の方針:[1] 標本自己共分散を標本分散で割って \(\hat{\rho}\) を求め、近似式 \(DW \approx 2(1-\hat{\rho})\) でDW統計量を算出。AR(1)過程の自己相関が指数減衰することを利用してコレログラムを選ぶ。[2] AR(1) 変換後のモデルで傾き \(\beta_1\) は元の傾きと近く、定数項 \(\beta_0\) は元の定数項に \((1-\hat{\rho})\) を乗じた値に近くなることを使って選択肢を絞り込む。

[1]

1. 1次の標本自己相関係数 \(\hat{\rho}\) の算出

自己相関係数 \(\hat{\rho}\) は、「共分散を分散で割る」ことで求められる。問題文で与えられている残差系列の分散と共分散を用いて計算する。

\[\hat{\rho} = \frac{\text{1次の標本自己共分散}}{\text{標本分散}} = \frac{10299.8}{14497.5} \approx 0.71\]

この結果から、残差には強い正の自己相関があることがわかる。

2. DW統計量の推定

DW統計量と 1 次の自己相関係数 \(\hat{\rho}\) には、以下の近似的な関係がある。

\[DW \approx 2(1 – \hat{\rho})\]

先ほど求めた \(\hat{\rho} \approx 0.71\) を代入する。

\[DW \approx 2(1 – 0.71) = 2 \times 0.29 = 0.58\]

選択肢の中でこれに最も近い数値は 0.61 である。

3. コレログラムの選択

求めた自己相関係数 \(\hat{\rho} \approx 0.71\) から、ラグ(横軸)が 1 のとき、縦軸が 0.7 付近の正の値をとるグラフを探す。また、問題文に「AR(1)モデルが適切」とあるように、AR(1)過程の自己相関は時間の経過(ラグの増加)とともに指数関数的にゼロへ向かって減衰していく特徴を持つ。

  • (ア) はラグ 1 で負の値をとっているため不適。
  • (イ) はラグ 1 で正の大きな値をとり、その後徐々に減衰しているため適切。
  • (ウ) はラグ 1 でほぼゼロであるため不適。

従って、正解は ② である。

[2]

1. 変換後の式の意味

元の回帰モデルを \(Y_t = \alpha + \beta X_t + e_t\) とする。この問題では初期の推定値として \(\hat{\alpha} = 87.509\)、\(\hat{\beta} = 0.548\) が得られている。

残差に \(e_t = \rho e_{t-1} + v_t\) というAR(1)の自己相関があると仮定し、変換を行う。

\[Y_t – \rho Y_{t-1} = (\alpha + \beta X_t + e_t) – \rho(\alpha + \beta X_{t-1} + e_{t-1})\]

\[Y_t – \rho Y_{t-1} = \alpha(1 – \rho) + \beta(X_t – \rho X_{t-1}) + (e_t – \rho e_{t-1})\]

問題文の変換後のモデル \(Y_t^* = \beta_0 + \beta_1 X_t^* + v_t\) と見比べると、新しい係数 \(\beta_0\) と \(\beta_1\) は、元の係数と以下のような理論的な関係になることがわかる。

  • 傾き \(\beta_1\):元の傾き \(\beta\) と等しい。
  • 定数項 \(\beta_0\):元の定数項 \(\alpha\) に \((1-\rho)\) をかけたものになる。

2. 選択肢の絞り込み

  • 傾き \(\beta_1\) について
    元の傾き推定値 0.548 に近い値を選ぶ。変換後のデータで再度最小二乗法を行うため多少のズレは生じるが、選択肢のなかでは 0.551 が最も妥当である。
  • 定数項 \(\beta_0\) について
    \(\hat{\rho} \approx 0.71\) であるため、\(1-\hat{\rho} \approx 0.29\) となる。\[\beta_0 \approx 87.509 \times 0.29 \approx 25.38\]こちらも微小なズレは生じるが、元の定数項 87.509 より大幅に小さくなることは明白である。\(\beta_1 = 0.551\) となる選択肢 ③ と ④ のうち、定数項が小さくなっているのは \(\beta_0 = 29.005\) となる である。

従って、正解は ④ である。

 

 

よくある質問

Q. DW統計量と自己相関係数の近似式 \(DW \approx 2(1-\hat{\rho})\) はなぜ成り立つのですか?

DW統計量の定義は \(DW = \sum_{t=2}^{n}(e_t – e_{t-1})^2 / \sum_{t=1}^{n} e_t^2\) である。分子を展開すると \(2\sum e_t^2 – 2\sum e_t e_{t-1}\) の形になり、これを分母で割ると \(DW \approx 2 – 2\hat{\rho} = 2(1-\hat{\rho})\) という近似が得られる。自己相関がない(\(\hat{\rho}=0\))とき DW≈2 になる、という直感とも一致する。

Q. AR(1)過程の自己相関がラグとともに指数減衰するとはどういう意味ですか?

AR(1)過程 \(e_t = \rho e_{t-1} + v_t\) では、ラグ \(k\) の自己相関は \(\rho^k\) に比例する。\(|\rho| < 1\) なら \(\rho^k \to 0\)(ラグが増えるにつれゼロに近づく)ため、コレログラムは指数的に減衰する形を描く。正の \(\rho\) なら正側で滑らかに減衰し、負の \(\rho\) なら正負交互に振動しながら減衰する。

Q. Cochrane-Orcutt 変換をする目的は何ですか?

OLS(通常の最小二乗法)は残差に自己相関があると推定量が非効率になり、標準誤差も正しく推定できない。Cochrane-Orcutt 変換では \(\hat{\rho}\) を使って元データを擬差分変換し、残差が白色雑音に近い新しいモデルを作る。これにより一般化最小二乗法(GLS)と同等の効率的な推定が可能になる。

 

 

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