統計学

【統計検定準1級】2015年6月 選択問題及び部分記述問題 問6【解答例・解説】

この問題のテーマ・前提知識

  • テーマ: 欠測データによる選択バイアス・回帰を用いた補完推定と相関係数への影響
  • 前提知識: 標本平均の性質 / ピアソン相関係数の定義 / 単回帰直線による予測値の意味 / 欠測メカニズム(MCAR・MAR・MNAR)の概念

 

 

問題の概要

1回目と2回目のテストを実施したが、1回目の点数が低かった学生ほど2回目を受験しない傾向があった。2小問からなる。[1] 2回目受験者のみで計算した平均 \(\bar{y}_A\) と相関係数 \(r_A\) が、真の平均 \(\mu_Y\) および相関 \(\rho\) をそれぞれ過大・過小・偏りなしのどれに当たるかを答える。[2] 2回目未受験者の得点を回帰直線で補完して全体平均 \(\bar{y}_B\) と相関係数 \(r_B\) を求めた場合の評価の方向を答える。

 

 

解説

解法の方針:[1] 低得点者が抜け落ちることで標本が高得点側に偏る(選択バイアス)ことを軸に、平均と相関係数それぞれへの影響の方向を論じる。[2] 回帰予測値で欠測を埋めると平均の偏りは解消されるが、予測値はばらつきを持たないため相関が水増しされることを示す。

[1]

1回目のテストで点数が低かった学生ほど2回目に受験しない傾向にあったことから、 \(\bar{y}_A\) で \(\mu_Y\) を推定した場合、平均値はより大きい値になると考えられる。

従って、 \(\bar{y}_A\) は \(\mu_Y\) を過大評価する。

また、本来「1回目が低い → 2回目も低い」「1回目が高い → 2回目も高い」という 正の相関 があると考えられるが、相関を強める「左下の点」がごっそり抜け落ちることになるため、関係が弱く評価される。

従って、 \(r_A\) は \(\rho\) を過小評価する。

別の例で考えてみる

身長と体重」は強く相関しているが、「身長170cm以上の人だけ」で相関を見ると思ったより弱くなる

[2]

回帰直線を用いて2回目のテストの得点を予測し、全体の平均を求めているため、過大評価は抑えられると考えられる。

従って、 \(\bar{y}_B\) は \(\mu_Y\) を偏りなく推定する。

また、回帰直線を用いて得られた予測値はばらつきを伴わないため、本来より相関が強いデータになってしまう。

従って、 \(r_B\) は \(\rho\) を過大評価する。

 

 

よくある質問

Q. なぜ低得点者が抜けると相関係数が小さくなるのですか?

相関係数は散布図の「広がりの向き」で決まる。1回目・2回目ともに低い点数の学生(左下の点群)は正の相関を強める役割を持つ。その点群が抜け落ちると散布図が狭い範囲に集まり、見かけ上の相関が弱くなる。この現象は範囲制限(range restriction)と呼ばれる。

Q. 回帰補完で平均の偏りが消えるのに、なぜ相関係数は過大評価になるのですか?

回帰予測値 \(\hat{y} = a + bx\) は1回目の点数 \(x\) の一次関数なので、個人ごとのランダムな誤差項を含まない。そのため補完後データでは「実測値のばらつき」より「予測値の滑らかな直線上の点」が増え、実際よりも相関が強く見える。平均値は正しいが分散・共分散の構造が歪む点に注意。

Q. この問題の欠測メカニズムは MCAR・MAR・MNAR のどれですか?

「1回目の点数が低い人ほど2回目を受けない」という欠測パターンは、欠測が観測済みの変数(1回目の得点)に依存しており、欠測値そのもの(2回目の得点)には直接依存していないため、MAR(Missing At Random)に相当する。MARであっても、1回目と2回目の得点に相関がある限り、受験者だけで計算する完全ケース分析の平均には偏りが生じる。一方、MARの下では [2] のように観測変数を使った回帰補完で平均を偏りなく推定できることをこの問題は示している。

 

 

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