この問題のテーマ・前提知識
- テーマ: 1次自己回帰モデル(AR(1)モデル)のACF・PACF・定常分散・標本平均の精度比較
- 前提知識: AR(1)モデルの定義と定常条件(\(|\alpha| < 1\))/ 自己相関関数(ACF)と偏自己相関関数(PACF)の違い / 定常過程における分散の時間不変性 / 自己相関が推定量の分散に与える影響
問題の概要
3つの小問からなる。[1] \(\alpha = 0.5\) のAR(1)モデルの偏自己相関係数(PACF)のプロットとして適切なグラフを選ぶ。[2] \(\alpha = 0.1\) の定常AR(1)過程の分散 \(\sigma_u^2\) をホワイトノイズの分散 \(\sigma^2\) で表す。[3] 独立な標本平均 \(\bar{x}\) と正の自己相関を持つ系列の標本平均 \(\bar{y}_{10}\) の不偏性・精度を比較し、正しい記述を選ぶ。
解説
解法の方針:[1] AR(1)のPACFはラグ1のみ有意・それ以降は0という特徴を使ってグラフを絞り込む。[2] 定常条件から \(V(u_{t+1}) = V(u_t)\) を利用して分散の方程式を立て \(\sigma_u^2\) を解く。[3] 両推定量の不偏性を確認したうえで、正の自己相関が共分散項を通じて分散を増大させることを示す。
[1]
1次自己回帰モデル(AR(1)モデル)は、現在の値が1時点前の値にのみ直接依存するモデルである。
AR(1)モデルにおける自己相関関数 (ACF) は、ラグ(時間差)が大きくなるにつれて指数関数的に減衰していくという特徴を持つ。
一方、偏自己相関関数 (PACF) は、その時点間の他のラグの影響を取り除いた純粋な相関を示す。AR(1)モデルの場合、1時点前の影響のみが直接的なものであるため、ラグ1の偏自己相関係数のみが有意な値(この問題では \(\alpha = 0.5\))を持ち、ラグ2以降は理論上 0 になるという特徴がある。
選択肢のグラフを確認すると以下のようになっている。
- ①:ラグが大きくなるにつれて徐々に減衰している(これは自己相関関数(ACF)のグラフの特徴である)。
- ②:ラグ1が 0.5 付近で、ラグ2以降は破線(有意水準5%の両側検定の臨界点)の範囲内に収まっており、ほぼ 0 である。
- ③、④、⑤:ラグ1の値が 0.5 ではない、あるいはラグ2以降も有意な値を持っている。
従って、AR(1)モデルの偏自己相関係数のプロットとして最も適切なのは ② である。
[2]
与えられたAR(1)モデルの式は以下の通りである。
\[u_{t+1} = \alpha u_t + \epsilon_{t+1}\]
ここで、\(u_t\) は定常過程であるため、どの時点でも分散は一定である。すなわち \(V(u_{t+1}) = V(u_t) = \sigma_u^2\) が成り立つ。
また、\(\epsilon_{t+1}\) はホワイトノイズであり、過去の値である \(u_t\) とは無相関である(共分散が 0)。
モデルの両辺の分散をとると、以下の式が成り立つ。
\[V(u_{t+1}) = V(\alpha u_t + \epsilon_{t+1})\]
\[V(u_{t+1}) = \alpha^2 V(u_t) + V(\epsilon_{t+1})\]
ここで、\(V(\epsilon_{t+1}) = \sigma^2\) を代入する。
\[\sigma_u^2 = \alpha^2 \sigma_u^2 + \sigma^2\]
これを \(\sigma_u^2\) について解く。
\[\sigma_u^2 – \alpha^2 \sigma_u^2 = \sigma^2\]
\[\sigma_u^2 (1 – \alpha^2) = \sigma^2\]
\[\sigma_u^2 = \frac{\sigma^2}{1 – \alpha^2}\]
問題文より \(\alpha = 0.1\) であるから、これを代入する。
\[\sigma_u^2 = \frac{\sigma^2}{1 – 0.1^2} = \frac{\sigma^2}{1 – 0.01} = \frac{\sigma^2}{0.99}\]
従って、正解は ② \(\sigma^2 / 0.99\) である。
[3]
まず、\(\bar{x}\) と \(\bar{y}_T\) の不偏性について確認する。
\(\bar{x}\) は平均 \(\mu\) の正規分布に従う互いに独立な確率変数の標本平均であるため、明らかに \(E[\bar{x}] = \mu\) となり、不偏推定量である。
一方、\(y_t = \mu + u_t\) の標本平均 \(\bar{y}_T\) についての期待値をとると、
\[E[\bar{y}_T] = E\left[ \frac{1}{T} \sum_{t=1}^T (\mu + u_t) \right] = \mu + \frac{1}{T} \sum_{t=1}^T E[u_t]\]
となる。
定常なAR(1)過程 \(u_t\) の期待値は 0 であるから、\(E[\bar{y}_T] = \mu\) となり、\(\bar{y}_T\) も \(\mu\) の不偏推定量である。これにより、選択肢②と⑤(\(\bar{y}_{10}\) に偏りがあるとするもの)は誤りとなる。
次に、分散(精度の指標)について比較する。
独立な系列の標本平均 \(\bar{x}\) の分散は、\(V(\bar{x}) = \frac{\sigma_0^2}{T}\) である(ここでは \(T=10\))。
一方、正の自己相関(\(\alpha > 0\))を持つ系列 \(y_t\) の標本平均 \(\bar{y}_{10}\) の分散を考える。
\[V(\bar{y}_{10}) = V\left( \mu + \frac{1}{10}\sum_{t=1}^{10} u_t \right) = \frac{1}{100} V\left( \sum_{t=1}^{10} u_t \right)\]
正の自己相関がある場合、\(u_t\) 同士の共分散が正となるため、分散の和に加えて共分散の項が加算される。
\[V\left( \sum_{t=1}^{10} u_t \right) = \sum_{t=1}^{10} V(u_t) + 2 \sum_{i<j} Cov(u_i, u_j)\]
共分散 \(Cov(u_i, u_j) > 0\) であるため、\(V(\bar{y}_{10})\) は、同じ分散を持つ独立なデータから計算した標本平均の分散よりも必ず大きくなる。
つまり、正の自己相関があるデータから求めた平均値(\(\bar{y}_{10}\))は、独立なデータから求めた平均値(\(\bar{x}\))よりも分散が大きく、推定量としての精度が劣る。
独立な場合と同等以上の精度(小さい分散)を得るためには、より多くのサンプルサイズ(\(T > 10\))が必要となる。
従って、正解は ③ である。
よくある質問
Q. ACFとPACFの見分け方がわかりません。AR(1)の場合はどう判断すればよいですか?
AR(1)では「ACFは指数関数的に減衰、PACFはラグ1だけ有意でラグ2以降は0」と覚えるのが基本。逆にMA(1)は「ACFがラグ1だけ有意、PACFが指数減衰」になる。グラフ問題ではまずラグ2以降に有意な値が続くかどうかを確認し、「ラグ1だけ突出して残りほぼ0」ならPACF、「ゆっくり減衰」ならACFと判断できる。
Q. 定常条件 \(|\alpha| < 1\) がないと分散を求める式が成り立たないのですか?
そのとおり。\(\sigma_u^2 = \sigma^2 / (1 – \alpha^2)\) が有限な値になるには \(|\alpha| < 1\) が必要で、これが定常条件そのもの。\(|\alpha| \geq 1\) だと分散が発散し、AR(1)過程は非定常になる。問題文で「定常過程」と明示されていれば迷わずこの式を使ってよい。
Q. 正の自己相関があると標本平均の分散がなぜ大きくなるのですか?
独立な場合は \(V(\sum u_t) = \sum V(u_t)\) で済むが、自己相関があると \(Cov(u_i, u_j)\) の項が加わる。正の自己相関では隣接する値が同じ方向に動きやすいため、これらの共分散が正となり合計の分散が膨らむ。直感的には「隣り合うデータが似た値をとりやすい=実質的な情報量が独立なサンプルより少ない」ことを意味する。



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