この問題のテーマ・前提知識
- テーマ: 母比率の信頼区間・同一標本における比率の差の分散(多項分布の性質)
- 前提知識: 標本比率の標準誤差の公式 / 正規近似による信頼区間の構成 / 多項分布における共分散の扱い
問題の概要
2つの小問からなる。[1] ある調査で得られた標本比率をもとに、母比率の95%信頼区間を正規近似で計算し、選択肢から選ぶ。[2] 同一の857人の標本において、2人の選手それぞれを支持する割合の差の標準誤差を求める。回答者が1人しか選べないという排反性が、独立2標本とは異なる分散の公式を導く点が鍵となる。
解説
解法の方針:[1] 標本比率と標本サイズを公式に代入して95%信頼区間の下限・上限を計算し、該当する選択肢を選ぶ。[2] 同一標本で排反な2割合の差は多項分布の分散公式を使う。独立標本の公式ではなく \(V(\hat{p}_1 – \hat{p}_2) = \{\hat{p}_1 + \hat{p}_2 – (\hat{p}_1 – \hat{p}_2)^2\}/n\) を適用する。
[1]
1. 必要な数値の確認
問題文の表から、以下の数値を読み取る。
- 有効回答数(標本サイズ):\(n = 857\)
- イチロー選手が好きだと回答した割合(標本比率):\(\hat{p} = 0.224\)
2. 95%信頼区間の公式
標本サイズが十分に大きい場合、母比率 \(p\) の 95 %信頼区間は以下の公式で求められる。
\[\left[ \hat{p} – 1.96 \sqrt{\frac{\hat{p}(1-\hat{p})}{n}}, \ \hat{p} + 1.96 \sqrt{\frac{\hat{p}(1-\hat{p})}{n}} \right]\]
3. 計算
まず、ルートの中の標準誤差を計算する。
\[\sqrt{\frac{0.224 \times (1 – 0.224)}{857}} = \sqrt{\frac{0.224 \times 0.776}{857}} = \sqrt{\frac{0.173824}{857}} \approx \sqrt{0.0002028} \approx 0.01424\]
\[1.96 \times 0.01424 \approx 0.0279\]
標本比率 \(\hat{p}\) にこの値を足し引きして区間を求める。
- 下限:\(0.224 – 0.0279 = 0.1961\)
- 上限:\(0.224 + 0.0279 = 0.2519\)
よって、95 %信頼区間は約 \((0.196, 0.252)\) となる。
従って、正解は ② である。
[2]
1. 前提条件の確認
- イチロー選手の割合:\(\hat{p}_1 = 0.224\)
- 錦織圭選手の割合:\(\hat{p}_2 = 0.169\)
- 標本サイズ:\(n = 857\)
ここで重要なのは、「1回の調査の同一の標本(857人)」に対し、「好きな選手を1人だけ」選ばせているという点である。つまり、1人の回答者がイチロー選手と錦織圭選手を同時に選ぶことはない(排反である)。
このような同一標本における割合を比較する場合、片方が増えればもう片方が減るという「負の相関関係」があるため、完全に独立した2つの調査を比較するときの計算式は使えない。
2. 同一標本における比率の差の分散の公式
多項分布の性質から、同一標本における割合の差の分散 \(V(\hat{p}_1 – \hat{p}_2)\) の推定値は以下の式で表される。
\[V(\hat{p}_1 – \hat{p}_2) = \frac{\hat{p}_1 + \hat{p}_2 – (\hat{p}_1 – \hat{p}_2)^2}{n}\]
3. 計算
\[V(\hat{p}_1 – \hat{p}_2) = \frac{0.393 – 0.003025}{857} = \frac{0.389975}{857} \approx 0.0004550\]
求める標準偏差は、この分散の平方根である。
\[\sqrt{0.0004550} \approx 0.02133\]
従って、正解は ⑤ である。
よくある質問
Q. なぜ独立2標本の分散公式ではなく、多項分布の公式を使うのですか?
独立2標本の公式 \(V(\hat{p}_1 – \hat{p}_2) = \hat{p}_1(1-\hat{p}_1)/n + \hat{p}_2(1-\hat{p}_2)/n\) は、2つの比率の共分散がゼロのときに成り立つ。しかし同一標本で1人が1つしか選べない(排反)場合、\(\hat{p}_1\) と \(\hat{p}_2\) の間には負の共分散 \(-\hat{p}_1 \hat{p}_2/n\) が生じるため、それを含めた多項分布の公式を使う必要がある。
Q. 95%信頼区間の1.96はどこから来ますか?
標準正規分布において上側2.5%点が \(z_{0.025} = 1.96\) であることから来ている。標本サイズが十分に大きいとき、標本比率は正規分布で近似でき、その区間推定に \(\pm 1.96 \times \text{標準誤差}\) を使う。準1級では1.96を与えた上で計算させる出題が多い。
Q. 多項分布の比率の差の分散公式はどう導くのですか?
多項分布では \(\text{Cov}(\hat{p}_1, \hat{p}_2) = -p_1 p_2 / n\) が成り立つ。分散の展開式 \(V(\hat{p}_1 – \hat{p}_2) = V(\hat{p}_1) + V(\hat{p}_2) – 2\text{Cov}(\hat{p}_1, \hat{p}_2)\) に各項を代入すると、\(\{\hat{p}_1(1-\hat{p}_1) + \hat{p}_2(1-\hat{p}_2) + 2\hat{p}_1\hat{p}_2\}/n = \{\hat{p}_1 + \hat{p}_2 – (\hat{p}_1 – \hat{p}_2)^2\}/n\) が得られる。



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